早期に事業を軌道に乗せることができたのは、スタートアップとして幸いでした

ウェルスナビ株式会社
代表取締役CEO
柴山 和久 氏

「WealthNavi」の簡単なサービス概要と誕生のきっかけについて教えていただけないでしょうか。

ウェルスナビは「長期・積立・分散」の資産運用を、自動化したサービスです。5つの質問に答えると、一人ひとりにあった資産運用プランを提案します。投資の知識や経験、資産の額に関係なく、世界の富裕層と同じ水準の資産運用を行うことができます。世界約50カ国1万1,000銘柄へ分散投資し、中長期的に世界経済の成長を上回る形で資産を増やすことを目指しています。お客様の約9割が、20代から50代の働く世代です。

起業のきっかけは、日米の家族間の金融格差でした。前職のコンサルティング企業で資産規模10兆円の機関投資家をサポートしていた頃、日米の家族の金融資産に10倍の差があることを知りました。妻の両親は、若い時から20年以上、会社の福利厚生でプロに資産運用を任せることができ、「長期・積立・分散」の資産運用を続けてきました。一方、私の両親はバブル崩壊後は投資を行わず、ほぼすべての資産が銀行預金でした。

同じような年齢、学歴、職歴であるにもかかわらず、資産運用をしていたかどうかで10倍の差がついたことに衝撃を受けました。もし私の両親が若いときに、誰もが安心して利用できる資産運用サービスがあれば、両親も日本全体も、今の何倍も豊かだったはずです。日本の働く世代の誰もが安心して利用できる資産運用サービスを作りたいと思い、ウェルスナビを起業しました。

「WealthNavi」の今後の展望をお聞きしてもよろしいでしょうか。

誰もがお金の悩みから解放され、豊かさを実感できる社会を目指しています。そのために、安心して利用できる金融インフラを築きたいと考えています。

起業当初、周囲からは「オンラインで完結する資産運用サービスを使う人なんていないのではないか」と心配していただくこともありました。しかし実際には、働く世代の強い期待に支えられ、事業を成長させてきました。預かり資産はサービス開始から約5年8カ月で6,500億円を超え、30万人以上(※)の方にご利用いただいています。

今、日本の働く世代の多くが、お金にまつわる不安や悩みを抱えていらっしゃいます。ウェルスナビは、働く世代が子供の代、孫の世代に遺していけるような、誰もが安心し信頼して任せられる次世代の金融インフラを目指しています。誰もがお金の不安や悩みから解放され、仕事や家族、趣味などに十分に時間を使い、豊かさを実感できる社会を目指しています。

SBIを投資家として選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか。

2016年1月にサービスを招待制で立ち上げ、半年後に正式リリースした創業期には、サービス認知度が低い中、数少ないお客様からのフィードバックを取り入れ、プロダクトづくりに心血を注いでいました。いわゆる「ロボアドバイザー」が国内で次々に立ち上がる中、ウェルスナビは、「長期・積立・分散」の資産運用をお任せでサポートするための機能が一通り揃った国内唯一の存在でした。私たちウェルスナビの「ものづくりする金融機関」としての志とプロダクト開発力を、SBIホールディングスの北尾社長、SBIインベストメントの川島社長(当時)やSBI証券の髙村社長をはじめSBIグループの皆様に見出していただきました。SBIグループからの出資のみならず、共同での事業構築、提携先候補の紹介やガバナンス整備など幅広い分野でご支援を頂きました。

出資後にどういった支援でお役に立てていたか教えていただけないでしょうか。

2016年8月に出資をしていただき、10月にSBI証券、住信SBIネット銀行との業務提携契約を締結しました。2017年1月に「WealthNavi for SBI証券」、2017年2月に「WealthNavi for 住信SBIネット銀行」をリリースし、2019年4月にはSBIネオモバイル証券と提携し「WealthNavi for ネオモバ」の提供を開始しました。ネット金融で日本をリードするSBIグループとのシナジーは大きくサービス開始から約1年となる2018年1月には、SBIグループのお客様からの預かり資産が約360億円に達しました。

また、SBIインベストメントに出資する金融機関や事業会社とのご縁を頂き、2017年12月にはソニー銀行と、2018年3月にはイオン銀行と、2018年4月には横浜銀行との提携サービスをリリースしました。さらに2018年5月には日本航空との提携サービスをリリースすることができました。SBIグループをはじめとする提携パートナーと協力することで、早期に事業を軌道に乗せることができたのは、スタートアップとして幸いでした。

さらに、SBIインベストメントの川島社長(当時)に、当社の社外取締役としてご指導いただき、スタートアップとしての急成長と体制整備を両立させる上で、多大なアドバイスを頂きました。スタートアップとして資金調達を重ねる中では、SBIホールディングスの北尾社長からも節目節目で財務面でのアドバイスを頂きました。当時北尾社長より頂いたアドバイスは上場後の現在でも経営上の大きな柱となっています。

ウェルスナビは2020年12月にSBI証券と大和証券を共同主幹事として上場しましたが、上場後もモメンタムを維持していくために長期目線で投資してくださる機関投資家を主軸とするIPOを志向していました。
実際の事業のモデルや事業のKPIを再設計し、1年かけて社内に浸透させていきました。そしてそれに基づくFinTech SaaSとしての事業成長の実績を見せた上で、説得力のあるエクイティ・ストーリーを機関投資家の方々にご説明することができました。

FinTech SaaSとしての事業成長の実績を見せた上で、説得力のあるエクイティ・ストーリーを浸透させるため、2年間かけて機関投資家の方々との対話を重ねました。2019年12月に東京で開催されたSBIカンファレンスでは、グローバルな地域の機関投資家の方々とお会いしました。機関投資家からのフィードバックで、私たちウェルスナビの事業モデルが非常によく理解されているという確かな手応えを感じることができました。

エクイティ・ストーリーの浸透度を見極めた上で、2020年に上場申請を行い、ロードショーに臨みました。ロードショーでは10日程度で70件以上の機関投資家との1on1ミーティングを実施しました。SBI証券の方々には、日本・アジアはもちろんのこと、ヨーロッパにおいても非常に積極的にリーチをしていただきました。この結果、IPOへの参加に非常に大きなインパクトがある投資家にIPOに参加していただけたというケースが複数ありました。

今後もSBIグループと協力し、一人でも多くの日本の働く世代をサポートできるよう、サービス改善に取り組んで参りたいと考えています。

起業後に直面した困難があれば、その時何を考え、どう打開されたのかも合わせて教えていただけないでしょうか。

プログラミングを一から学び、サービスの原型を自分で作ったことです。すべてが未経験で、人生で最も苦労した1カ月でした。
世界の富裕層が実践する資産運用を誰でも使えるようにするには、テクノロジーの活用が必要です。そこで、サービス作りができるエンジニアを探したものの見つかりませんでした。仕方なく、渋谷のプログラミング学校に通い、一から勉強してサービスの原型を作りました。

それまでの人生でプログラミングに接したことは一度もなく、財務省やコンサルティング会社の激務とは全く異なる苦労がありました。それまで想像も及ばなかったことですが、コンマひとつ、スペースひとつ間違うだけで動かず、1時間で直そうと思っていた課題が1日かけても直らないといったことがよくありました。卒業までの5週間、休みなくプログラミングに取り組み、サービスの原型を作ったことが、初の資金調達につながりました。

経営者として大切にされていることを教えてください。

ものづくりの苦しさと喜びを自ら実感し、チームと共有できるかどうかが重要だと考えています。
起業する際、アイデアを出すだけでなく自ら手を動かしたことで、エンジニアの苦労や喜びを部分的には理解できるようになりました。

私自身のこうした経験から、まずは、ビジネスサイドとエンジニアサイドで「視界が違う」という前提に立つべきだと感じています。ビジネスの視点しか持っていなければ、プログラミングは未知の領域であり、想定外のことが多くあります。エンジニアとともにチームを作るには、ものづくりの大変さや喜びを実体験として持ち共感できることが必要になります。

最後に若手の起業家や今後起業をされる方に向けてアドバイスをいただけないでしょうか。

周囲の起業家から、失敗の経験を学んでいただきたいと考えています。起業に成功パターンはありませんが、失敗を類型化して周りの起業家と学び合うことで、成功確率を上げることはできます。華々しく事業を成長させているように見える起業家も、実際には、大多数の起業家と同じか、むしろそれ以上の失敗を繰り返し、泥沼を這い進むような苦労をしています。周りに起業家がいれば、起業の本や記事の多くには書いていない、そのような失敗談を直接聞くこともできます。同じような失敗を少しでも減らすことで成功確率を高め、新しい事業や産業を生み出し、次の世代の起業家へとバトンを渡していただけたらと思います。

※ 運用者数は31.7万人(2021年12月31日時点)

会社名

ウェルスナビ株式会社

設立年月

2015年 4月

事業内容

金融商品取引業、資産運用サービス『WealthNavi』を開発・運営