みんなで、システム化して解決することがスケールするために大事だと考えています

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
代表取締役CEO
落合 陽一 氏

これまでのキャリアについて教えてください。

筑波大学でメディアアートを専攻した後、東京大学の大学院でヒューマンインターフェースについて研究していました。研究を続けて東京大学大学院の博士課程に進み、博士課程を修了する直前に当社を設立しました。博士課程修了後、筑波大学で研究室を始め、助教授、准教授、学長補佐を務めてきました。今は筑波大学のデジタルネイチャー開発研究センターのセンター長、当社のCEO、メディアアーティストという3つの顔を持っています。

起業して会社を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

私の研究分野はGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftといった企業が競合になるのですが、そのような企業とは資本力や企業体力に大きな差があると感じたことが大きかったです。
会社を設立した方が研究室で研究を進めるよりもリソースを充実させられると考え、会社を作りました。現在当社では大学の研究室で生まれたシーズを事業化して社会実装を進めています。

どのような技術の社会実装を進めてきたのでしょうか。

元々は超音波とレーザーの研究をしており指向性スピーカーを開発していました。これは今でも引き続き開発を継続していますが、今では大きく分けて以下の3つの事業に取り組んでいます。
ひとつには超音波を取り扱う分野、もうひとつは3次元空間での人の接触検知等の空間認識・空間把握を行う分野、そして顧客の新規プロダクトの共同研究開発事業という3つです。

現在進めているプロジェクトの中では鹿島建設様やJR東日本グループ様と進めている建設現場、駅や車両における課題解決を目的とした共同研究開発や、シルバーウッド様と共同で開発している介護現場での利用を想定した自動運転車いす「xMove(呼称:クロスムーブ)」などが近いうちに世の中にお披露目できそうです。

その他には社会における課題に焦点を当て、その課題の解決にパートナー組織と連携しながら取り組むPixie Nestというコンソーシアムの運営も行っています。

パートナー企業との共同研究では、貴社のテクノロジーを用いてパートナー企業の課題を解決する形が多いのでしょうか。

それもありますし、逆に研究していたシーズが、ある課題に当てはまるというパターンもあります。
他には課題に対して技術的な難易度はあまり高くはないテクノロジーで解決を図るということもあります。また、個々のテクノロジーは飛び抜けていなくても、水平的に結合することでイノベーションになる場合もあります。

新規性の高い研究開発は現実の課題と照らし合わせると十分に応えられない場合も多いのですが、当社は社会の課題・ニーズに対してフィットするテクノロジーを見極め、フィットするプロダクトを作り上げていく事が出来ますので、この点が強みだと考えています。

今後のピクシーダストテクノロジーズの方向性、事業の展望を教えてください。

現在注力しているのはコロナ禍のBCPソリューションである「Magickiri」と、建設現場のデジタルツイン化を目指す「KOTOWARI」です。
ピクシーダストテクノロジーズでは突飛なアイデアが出て、突飛なものが突飛な状態で走っていき、突飛なお客さんがつくという場合も珍しくないです。

ただ、スケールするのはアイデアにオリジナリティがないものという印象があります。
研究者としては人類が誰も思いつかなかった課題を解いているうちに世の中が追い付いてきたという研究の方がより価値が高いと思っているのですが、そのような研究の必要性に世の中が気づき普及していくには50年程度かかります。それをベンチャーが事業として行うのは難しいです。だから、会社として行うべきは世の中誰もが考えている課題に正面から取り組んでいくことだと思います。

誰もが思いつく課題というのは大手が参入する可能性ももちろんありますが、そこは速度で大企業に勝っていく事が出来るのではないかと思います。民生用ハードなどは大企業の資本力が必要ですが、ソリューションの領域で成長するうえでは大企業とベンチャーとであまり差はないと考えています。

経営者として大切にされていることを教えてください。

経営者としては「落合陽一のキャラクター」が強すぎる会社にならないよう努めています。
研究者としては数人のグループ単位で仕事をしますし、そもそも業界全体として技術をどう一歩進めていくかが重要なため少人数の専門性と議論こそが命です。作家・アーティストとしては個人の名前で仕事をするため、手わざやインスピレーション含めた私個人の力量が重要です。

それらと比べ、一方、会社は集団で仕事をします。個人が得意な部分を持ち寄って、会社全体としてのキャラクターを作り上げるので、私個人のキャラクターが出すぎないように気を付けています。会社は安定したパフォーマンスを出せるようにすることが重要なので、極力みんなで、システム化して解決するようにしていて、それは会社がスケールするために大事だと考えています。
そのため、CEOとして勘所を働かせて共同研究などの相手が求めていて、自分もやりたいというネタを持ってくるのは私の仕事ですが、それをどういったかたちで実装するか、どのように落とし込むかは他の方に任せるようにしています。私はプログラムも書けますし、電子回路や光学や音響は研究上の専門なのである程度は分かりますが、口出しするとキリがないので社内のメンバーに任せています。自分が細かいところに口出しすると私個人の展覧会場になってしまいます。会社のCEOとしては自分のファンではなくピクシーダストテクノロジーズという会社のファンを作る必要があります。長く続く成長企業になるために不可欠な要素だと思っています。
あとは、見たことのない形の物を作り、見たことない体験を届けることにこだわりすぎないということにも最近は気を付けています。最初はそれでも良いのですが、今のフェーズの会社としてはニーズドリブンで当たり前の物を当たり前に作り世に問うことの方が大切です。

個人、集団(研究者)、会社のいずれの立場であっても、目指すべきところは似ています。デジタルネイチャー、計算と人間の親和性をもたらす世界をどうやって築いていくのか、人のダイバーシティをどうやって拡張できるのか等々。そういったことはどの立場であっても考えていますが、立場によって振る舞いは少しずつ変えるようにしています。

「この人は自分を越えるかもしれない」と思うような稀有な才能をお持ちの方はいらっしゃいますか?そうだとしたらどのような共通項や資質がありますか?

「すぐやる」人です。それ以外に才能を感じることはあまりないです。研究者に限らず人類で一番大事なことではないでしょうか(笑)。「すぐやること」を「いつでもやっている」。シンプルですがこれが一番大事です。

これから起業を目指している人へのメッセージをお願いします。

ベンチャーで重要なことは「引っ越し」だと思います。
事業の成長とともに人が増えてきて「引っ越し」を検討するタイミングは、会社として一つステージが進み、組織や自身の経営者としてのあり方を考える良い機会です。当社も元々はインキュベイトファンドのオフィスを間借りして村上(代表取締役COO)と喫茶店で仕事をしていました。その後、研究室やアトリエの様な秋葉原のオフィスを経て、今のオフィスに移っています。創業当初は個人で仕事をするのと同じように、自分の属人性を生かして仕事に取り組んでいましたが、それを続けていると会社の経営者として広い視座で物事を見ることが出来ません。
これまでオフィスの引っ越しを行う度に、会社全体が組織として強くなり、私自身も成長できたと思っています。これから会社を起業される方は、「引っ越し」は会社として一つステージが進む大事なタイミングであるということを意識されると良いと思います。

会社名

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

設立年月

2017年 5月

事業内容

音・光・電磁波などの独自の波動制御技術を用いた事業を展開