金融サービスを通じた人々の幸せを真剣に考えられており、私たちが実現したい世界観に共感いただけました

Global Mobility Service株式会社
代表取締役 社長執行役員/CEO
中島 徳至 氏

ご経歴、御社設立のきっかけについてお聞きせください。

私はこれまで3社の起業経験があります。1社目、2社目がEVメーカー、3社目がGlobal Mobility Service(株)です。弊社は自動車などのモビリティを制御する IoTデバイスと車両データや金融データを分析するプラットフォームの提供を通じてこれまで審査に通過できなかった方々の与信力を高め、ファイナンスの機会創出と、利用者の皆様の豊かな生活を実現すべく事業を行っています。

1社目の(株)ゼロスポーツはかつてアメリカのテスラに匹敵するようなEVベンチャーでした。当時では類を見ないEV集配車1,030台のオーダーを獲得していたものの、納入契約が解除され、やむなく事業譲渡に至りました。その後、事業譲渡先である渦潮電機(株)でEVの事業化を主導するとともに、その子会社としてフィリピンにてEVベンチャーであるBEET Philippine Inc.を設立しました。これが2社目の起業です。

1社目と同じく低炭素社会の実現という志を持ち、EVの普及に向けて取り組んでおりましたが、マーケット調査を行う中で現地のほとんどの人々はローンやリースなどの金融サービスを利用することができないことが分かりました。つまり、いくら良いEVを作ったところで自動車を購入する環境を整えることができなければ、世界の排ガス・騒音問題の解決や、自動車を用いた雇用の創出はできないということを痛感したのです。

2社目のEVベンチャーにおいては、社長就任期間に技術開発と市場化を約束していました。ちょうど目的を果たして社長を退任し本社に戻るタイミングで、本社で仕事をするよりも、自分が感じた課題を解決したい思い、即ち、働くために車が必要であるにも関わらず、それが叶わない貧困層・低所得層の方が車を購入し、豊かな生活を手にすることができるエコシステムを創っていきたいという思いが強くなりました。本社にもご理解いただき円満退社をして、2013年11月に「モビリティサービスの提供を通じ、多くの人を幸せにする。」という経営理念を掲げ、当社の設立に至りました。

1社目を事業譲渡した後、再起することができた原動力は何だったのでしょうか。

当時はもちろん無念な思いでいっぱいでしたが、再び立ち上がることができた理由は簡単です。期待して応援してくださった方々に対する責任として、形は違えどもいずれ成功を収めて恩返しをしなければならないと思ったからです。

私が起業したEVベンチャーは、大企業や他のEVベンチャーがやるのであれば世の中に必要なかったでしょう。EVは社会において必要不可欠となる時代が必ず来ますが、それに対してしっかりと準備をしておかなければ、世界の流れに乗り遅れ、日本の基幹産業である自動車産業、製造業を守れなくなる。私は起業家というものは事業を通じてどれだけ社会を豊かにしていけるかが大事だと思っているので、誰もやらないのなら私がやらねばという使命感がありました。1社目を起業した際には、私たちのこの思いに共感し、多くの方々が期待して出資してくださいました。最終的に事業を譲渡することになりましたが、やれることは全てやった結果です。ここで私が腐って立ち止まってしまっては、事業や私自身をここまで育てていただいた投資家やパートナーの方々に申し訳が立ちません。

その後も多くの苦しいことがありましたが、いつかお世話になった方々へ恩返しをしたい。そのような想いでここまでやって来ることができました。昔と今とで事業内容は異なりますが、私が事業を通じて社会課題の解決を実現したいことは一貫しております。

創業されてから今日に至るまでに直面した困難について教えてください。

当社を設立してから7年間でさまざまな困難がありました。主には資金調達、事業開発、技術開発の3つに関するものでしたが、これまで世の中に無かったビジネスモデルだったので、特に資金調達が大変でした。

SBIさんには2015年のシリーズA、2016年のシリーズBにご参加いただいきましたが、シリーズAの2015年頃は貧困層や低所得層に向けたフィンテックサービスを提供する企業は非常に少なく、私たちの取り組みを理解していただける日本のVCはほとんどありませんでした。SBIさんは将来のあるべき金融の姿、金融サービスを通じた人々の幸せをどの投資家よりも真剣に考えられており、私たちが実現したい世界観に共感いただけました。

投資家としてSBIを選ばれた理由は何でしょうか。

投資担当者である松本部長をはじめ経営陣の方々が我々の取り組みに理解を示してくださったことが大きかったです。

当時はフィンテックというと、従来から金融にアクセスできるユーザーに早く、安く、便利に提供するという既存の金融システムの延長線上でDX(デジタルトランスフォーメーション)するアプローチのものがほとんどでした。私たちのような社会的DXをフィンテックで実現していくというプレーヤーは世界的にも珍しいものでした。我々の事業は今でこそ注目されていますが、シリーズAの頃は知名度が低く組織も脆弱でした。そういった中で、松本さんに事業の将来性を見出していただき、SBIさん内で説明・説得して強く推していただきました。あの時の熱意が決め手になりました。

出資後にどういった支援でお役に立てていたか教えてください。

様々な面で可能性を提供し、我々の成長の道を作ってくださったことに大変感謝しております。重要な事業パートナーであるSBIソーシャルレンディング(株)や地方銀行、各資金調達ラウンドで投資家候補となるVCや事業会社をご紹介いただきました。それらの投資家候補によるヒアリングでは松本部長をはじめ経営陣の方々にもご協力いただきました。直近のコロナ禍においては資金的支援をいただくなど、各ステージで必要なアドバイスやサポートを数えきれないくらいいただいています。

今後の展望をお聞きしてもよろしいでしょうか。

私たちの事業は単にドライバーに車を提供することが目的ではありません。ドライバーにとって自動車は豊かな生活を送るための大切な手段です。ドライバーの働きぶりなどを可視化・価値化し、スコア化されたデータを金融機関に提供することで、住宅ローンや教育ローンなどドライバーが求める本来の豊かさを提供していきたいと考えています。

経済学者のムハマド・ユヌス氏はグラミン銀行を創設し、貧困地域の約400万人に無担保小口融資を提供した功績で、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。20世紀のアナログの時代ではそれでも十分素晴らしいことですし、貧困層や低所得層の方々にとっては、日々の生活費の提供は大切なことです。しかし、それだけでは、貧困層や低所得層は、貧困・低所得のままです。21世紀のデジタルの時代においては、SDGsにもあるように貧困をなくす、すなわち貧困層や低所得層から中間層へと押し上げる取り組みが求められています。そのためには金融の力が必要であり、これはフィンテック企業の責務です。デジタル化の時代においてはきっと数千万人、数億人規模の人を救うことができるでしょう。そういった社会を牽引するためにも、2030年までに当社のサービスで1億人にファイナンスを提供することを目標としています。そのために金融機関との提携、IPOなどの様々な手段を講じていき、これからの10年で事業展開を加速させていかなければなりません。

経営者として大切にされていることはありますか。

真面目に経営することです。40代・50代など私くらいの年齢になってくると今までの人生を必死に生きてきた中で感じた課題や、成し遂げたいという想いが何かしらあると思います。事業とはこの成し遂げたい想いを実現するために、周りの方々の大切な時間や知恵を拝借して進めていくことなので、真面目に取り組んでいかねばなりません。もちろん上手くいく時、上手くいかない時がありますが、真面目な姿勢を忘れてしまうと、ステークホルダーの信頼を欠いてしまう。様々な外的要因がある中で全てを滞りなく進めていくことは難しいかもしれませんが、ステークホルダーとの信頼関係にはかなりこだわりを持って進めていくことが大切だと考えています。北尾会長もよく仰っている「信・義・仁」とはまさにそういうことなのではないかと思います。

若手の起業家や今後起業をされる方に向けてアドバイスをお願いします。

事業に寄り添ってくれる良いパートナーとの巡り合いは重要です。会社の成長は自分一人の力では成しえません。我々にとってのSBIインベストメントさんのような関係がもしご自身の会社で幸運にも持てるのであれば、経営者自身がそのパートナーと伴走をしていく中で得られるものはたくさんあるでしょう。

また、私はフィンテックブームが勝手に来たとは考えていません。2015年頃のSBIグループのフィンテックに対する思いは並々ならぬものがありました。我々を含めて長期的な目線でフィンテックベンチャーに支援されていたからこそ、今があると思っています。我々起業家もその様に長期的な目線で世の中を創っていくことが大事ではないでしょうか。

あとは、確固とした意志を持つこと、その意志をしっかりと伝えることができるよう自身の土台を築くことも大切です。土台がない中でいくら自分の意志を説明、説得をしても“ぐらついて”見えてしまいます。だから仕事であろうと勉強であろうと今自分が置かれている環境で、目の前のことから逃げずに徹底的に取り組むべきです。起業家はまだ何も出来上がっていない中で、信頼をしてもらい周囲の方々に動いていただく必要があります。そういった確固たる意志を持つに至るまで、自分が何をどう積み上げていくかを考えることが大切だと思います。

会社名

Global Mobility Service株式会社

設立年月

2013年 11月

事業内容

自動車の遠隔起動制御を可能にするIoTデバイスとモビリティサービスプラットフォームを活用したFinTechサービスの提供