グループ会社のリソースを使い支援する点は画期的であると感じました

株式会社モダリス
代表取締役CEO
森田 晴彦 氏

事業概要について教えてください。

我々の技術領域はゲノム編集という遺伝子を切り貼りする技術分野でありますが、そこで使用されるCRISPRという素材を少し変わった使い方をして、遺伝子を切り貼りせず遺伝子のスイッチを触って治療をすることが当社の特徴です。

遺伝子のスイッチを触って治療するのが何故合理的なのかと言うと、全ての遺伝子がスイッチでコントロールされているからです。もう少し詳しく言うと、我々の体は約37兆個の細胞でできており、肝臓、神経、筋肉など200種類以上に分類されます。しかし、元々はたった一つの受精卵から始まっているので、どの細胞も同じDNAのコピーを持っているのです。それにも関わらず、異なる形態や機能をもった細胞になるのは30億個の塩基(DNA)でコードされている2万の遺伝子において、どの遺伝子がどの細胞でオンになるかオフになるかがコントロールされていることに起因しているのです。それらの2万個の遺伝子全てにスイッチボックスのようなものがついており、このスイッチボックスによって細胞ごとに遺伝子のオンとオフが制御されています。このスイッチの入り方を間違うと病気になってしまうのです。我々はこのスイッチを元通りにすることで、疾患を治療するという研究しています。

これまでの森田様のキャリア、起業に至る経緯を教えてください。

大学では分子生物学を研究しており、キリンビール(株)[現 協和キリン(株)]ではバイオロジクスという当時としては新しい分野の創薬研究を行っていました。当時のキリンは、アムジェンという後に世界的なメガファーマとなるバイオテック企業と組んで研究をしており、私が入社した当時にアサインされたプロジェクトもアムジェンとの共同研究でした。アムジェンはバイオテックで最先端のアプローチ・考え方を持ちながら、目的に向けて組織や決裁などを越えて、Objective Driven(目的志向)で効率的な研究開発を進めており、こういった形が理想の姿だと新入社員なりに感じました。

アムジェンに限らず海外の提携先バイオテック企業たちはうまくビジネスを作り、大きく早く成長しており、それができない自らの環境に不甲斐なさを感じていました。サイエンスでいくら最先端であっても、ビジネスがうまくできなければ研究者にとっても会社にとっても不幸であると気づき、コンサルティングファームへと転職、ビジネスとサイエンスの融合を自分の立ち位置にしていこうと決めたのです。

コンサルティングファームに2年在籍する中で、ビジネスについて多くを学ぶことができました。一方で、コンサルは自分でドライバーズシートに座り事業を行うわけではありません。実際に自分で手を動かしてビジネスをする経験を積むためにバイオベンチャーへ参画することになりました。その後、自分が創業して8年間代表を務めていた会社はフェーズ2まで研究を進めたところで会社を去って、しばらく海外を放浪することとなりました。その時に次は希少疾患向けの研究開発を事業にしたいと考えました。希少疾患向けの治療薬は社会的な意義が大きいにも関わらず大手製薬があまり手を出さず、意思決定のスピードでベンチャーが大手製薬会社に勝てる分野だからです。希少疾患に対する技術を探す中で、当社の共同創業者である東京大学の濡木先生のことを知りました。早速、濡木先生が講演されるゲノム編集のセミナーに参加しようとしたところ、参加料が4万円と非常に高かった。そこで、直接訪問したい旨お伝えして、1対1でお話する機会をいただきました。しめしめ、4万円浮いたなと(笑)。

2時間ほどディスカッションさせていただく中で、技術的に非常に面白く、知財も何とかなりそうだということで、先生に「起業をしませんか」と持ちかけました。すると、濡木先生もちょうど起業について考えていたということで、その日の内に合意に達することができ、起業に至ることとなりました。

SBIから出資を受けた経緯や投資後の支援について教えてください。

SBIさんにはシリーズA及びシリーズBに参加頂きました。事業の展望について高くご評価いただきまして、当初計画したよりも多くの金額をご出資いただくなど前のめりで投資していただいたことが強く印象に残っています。また、上場後も別のグループ企業より引き続きご支援いただいています。グループ会社のリソースを使い支援する点は画期的であると感じました。

SBIさん含め投資家の皆様は我々のオペレーションを信じてくださったので、投資家の皆様に手を動かしてご支援を頂くということはありませんでした。

一方で、SBIさんは投資検討の際に弊社事業を非常に高くご評価いただき、TV番組での北尾会長との対談によりパブリシティを高める機会を与えていただいたことは非常に大きいです。あと、実際に販売先や提携先をご紹介いただくといった直接的な支援はありませんでしたが、SBIさんがご出資をしてくださったということで箔が付く、対外的な信用力が増すという効果はあったと思っています。

上場に至るまでの苦労話はありますか。

SBIさんよりご出資を受けてから約3年、創業してからも約4年7ヵ月という非常に短い期間でIPOに至ったため、正直に言うと苦労らしい苦労はしていないかもしれません。デザインした通りに事業を進捗させることができました。

上場直前にコロナの影響で一瞬市場がたじろぎましたが、こういった状況の中でも事業は着実に進捗していき、結果的には良いタイミングで上場を果たすことができました。ただ、これは結果であってその過程には我々が創業以来、煉瓦を積み重ねるように着実に事業を進めてきたからこそ、波風があってもブレずにいられたのだと思います。

何故ボストンに研究拠点を持ちながら、日本での資金調達、上場を選ばれたのでしょうか。

1つ目の理由は、当社の研究がもともと日本のシーズであるためです。

2つ目はボストンでは既にCRISPRでゲノム編集を行う会社が4社上場しており、我々が5社目になってもインパクトは少ないと判断したためです。一方、日本ではゲノム編集の企業としては初めての上場企業となり、市場に与えるインパクトは非常に大きなものになると考えたのです。

また、投資家のお金に対するアクセスという面も理由として挙げられます。世界中のスタートアップがボストンのVCから資金調達を試みるのに対し、我々は日本の投資家とは強い繋がりを持っていました。ボストンか日本のどちらの投資家に対して強い競争力を持って資金調達できるかと言えば、後者でした。

日本の投資家にとっても我々の様なグローバルに展開するゲノム編集ベンチャーに対する投資機会を持つことはこれまで難しかったです。日本で資金調達ならびに上場を行ったことは投資家にとっても良いことだったのではないかと思います。

会社を経営するうえで日々大切にされていることはなんでしょうか。

人(社員)です。会社の基本的な戦力は人で決まります。

経営者の描いた絵を実行に移していくのは一人ひとりの社員で、頭脳を持った手(社員)が自律的に考えて事業を行うことで、経営者の想像を超えて事業は進んでいきます。だから、良い人を採用すれば必ず会社は良くなっていきます。

「人は石垣、人は城」とはまさにその通りであると思います。良い人材を採用することが社長の最大の仕事で、それさえできればうまくいったも同然です。

これから資金調達をされるベンチャー企業や、起業される方へのアドバイスをお願いします。

今はカネ余りの状況ですが長続きはしないでしょう。浮かれずに着実に事業に取り組むことが大事です。十数年にわたって会社を経営してきた経験から言うと、未曾有の危機や千年に一度の危機というのはだいたい2年に一度の頻度でやってきます。リーマンショック、東日本大震災、そして今のコロナ禍も然り。それに備えて、ソリッドな会社を作っておく必要があります。お金が余っている時にアクセスしない手はないのですが、資金調達できたからといってお金を生まないオフィスなどに必要以上にお金をかけるべきではない。資金調達に成功しても浮かれず財布の紐は固く閉じ、必要な投資、するべき投資を行い事業にフォーカスすることが重要です。

会社名

株式会社モダリス

設立年月

2016年 1月

事業内容

CRISPR 技術を用いた医薬品開発、プラットフォーム技術提供