SBIグループの案件をご紹介いただきましたが、現在でも取引が続いています

株式会社グッドパッチ
代表取締役社長
土屋 尚史 氏

事業内容について教えてください。

デザインの力でビジネスを前進させるグローバルデザインカンパニーとして、スマートフォンアプリなどのデジタル領域におけるUI/UXデザイン、ビジネスデザイン、ブランド体験デザインなどを手掛けています。
プロダクト・サービスの見栄えや表面上の見た目を綺麗に整えるデザインの受託請負ではなく、事業・プロダクトの戦略から表層までを一気通貫でお手伝いさせていただいています。

これまでのキャリア、起業に至る経緯について教えてください。

大学時代に大病を患ったことと、ベンチャー起業論という講義でソフトバンク(株)[現ソフトバンクグループ(株)]の孫さんや楽天(株)の三木谷さんについて学んだことが人生観に大きな影響を与え、起業を志し大学を中退しました。22歳の時に30歳までに起業すると決意し、数年間はECサイト運用のコンサルティング営業やWeb制作会社のWebディレクターを経験しました。27歳の時に、祖母が私にお金を残してくれていたことが分かり、これは祖母が起業しろと言っているのだなと感じ、会社を辞めて起業することにしました。

事業のネタを求めて様々な起業家のセミナーに参加しました。渡米のきっかけとなったのは(株)ディー・エヌ・エーの南場さんの講演でした。「これから起業する人たちは、日本人だけのチームを作っていては駄目だ。グローバルで戦うためには多国籍軍を作りなさい」というお話に感化され、次の日にはシリコンバレーに行くことを決意していました。
シリコンバレーで働く場所を探している中で、いろんなツテを辿ってサンフランシスコにいるデザイン会社の社長を紹介してもらうことができ、なんとかインターンの選考に合格。妻と生後8か月になる娘を連れて渡米しました。英語も話せない、海外渡航の経験もない私が脱サラして妻と乳飲み子を連れてサンフランシスコに無給のインターンに行くなんて無茶苦茶ですよね(笑)でも、当時は“ここで行かなかったら自分の起業家としての人生はない”と考えていました。

私が渡米した2011年は、Uberがサービスをリリースしてから1年弱、Instagramは半年のタイミングでサンフランシスコはスタートアップブームの真っただ中でした。毎日のように行われるスタートアップのピッチイベントに参加した私は、β版であってもプロダクトのUIがシンプルで美しく、使いやすかったことに強い衝撃を受けました。
当時の日本では、UIよりも多機能であることが重視され、デザイナーの地位もとても低いものでした。しかし、日本でもいずれデザインが重要視される時代が到来すると確信し、2011年9月に当社を設立しました。

元々はIPOを目指されていなかったそうですが、どういった経緯で方針転換されたのでしょうか。

UI/UXデザインという受託型のスケールしづらいビジネスで起業したため、IPOを目指す会社ではないと考えていました。私自身が大学中退、有名企業で働いていたわけでも、誇れるトラックレコードがあるわけでもないので、むしろIPO以前に数年で会社が潰れるだろうと(笑)。

なんとか創業3期目まで事業を継続したところで、当時の借入可能金額ではカバーできない規模の資金ニーズが出てきたため、初めて外部からの出資を受け入れました。この時点で、IPOかM&Aしか選択肢がなくなったのですが、当時はどちらの選択肢もありえると考えていました。
IPOを目指そうと思うようになったのは、ちょうどこの頃、「なぜグッドパッチがこの事業をやるのか」「なぜ社会に必要なのか」という我々のビジョンやミッションを言語化していく中で、我々の使命感が明確になったからです。

当社の社員は、全員デザインが大好きでデザインの力を信じています。ただ、日本ではデザインというものが表層の装飾のような解釈をされており、デザイナーの待遇も良いとは言えません。
未来を見据えると、日本は人口減少社会のため単純労働ではなくデザインを含めたクリエイティブな仕事で国力を上げていかなければならないのは明らかです。ですが、デザイナーやデザイン業界の社会的地位が低ければ優秀な人材は集まりません。そんな環境では業界全体が盛り上がるわけもありません。この現状を変えたい、という想いがありました。

社会におけるデザインそのものの価値を向上させ、デザイナーが幸せになる社会をつくりたい。今後、明らかに急拡大するデジタル領域のUI/UX分野で時代の波の先頭にいる我々以外に、このようなミッションを持った会社は出てこないと考えIPOを目指すことと、どんなM&Aのオファーがあっても会社は売らないことを決めました。これが6年前の出来事です。

そのご決断をされた後、SBIが出資させていただいております。我々SBIからの出資受け入れの決め手は何でしょうか。

2016年に初回のご出資を頂いたときは金額も小さかったため、特別な思い入れはありませんでしたが、後藤副社長より「本当はもっと投資させていただきたかったので、次回ラウンドでは是非お声がけください」と言われたのが印象に残っていました。

その後、シリーズC(2017年)にフィンテックファンドから追加でご出資いただいた頃には、ちょうどフィンテック分野が盛り上がりを見せており、サービスやプロダクトにおけるデザインの重要性も高まりつつありました。

SBIがネットワークを有するフィンテック企業に対してUI/UX面で支援ができればという期待もあり、出資受け入れを決めました。
実際に、出資後にSBIグループのいくつかの企業案件をご紹介いただきましたが、現在でも取引が続いています。
また、我々がご支援いただいたのは案件のご紹介が中心でしたが、例えばウェルスナビ様はSBIと組むことで圧倒的なグロースを実現されています。事業提携を通じてユーザーの裾野を広げていく取り組みは確実にメリットがあると思います。

今後の展望を教えてください。

社会全体のDX推進の中で大型案件の獲得を通じて堅実に業績を伸ばしていきたいと考えています。また、デザイン領域から派生して戦略やテクノロジーといった領域へも事業を広げます。
さらに、SaaS事業の「Strap」を伸ばすとともに、今後もSaaS型の新規事業を増やしていきます。デザインパートナー事業でUI/UXデザインの支援を着実にこなしながら、SaaS型事業で積み上げを図っていきます。

今後起業や資金調達を検討している方や会社にメッセージをお願いします。

VCマーケットの拡大により、投資家の選択肢も出資金額も以前より増えています。
だからこそ、しっかりと受け入れ先を選ぶ必要があるわけですが、投資家はパートナーでもあるので、この人なら共に歩んで行っても良いと思える人(VC)からの出資を受け入れるのが大事だと思います。
事業提携やアライアンスありきで出資を受け入れても、機能しないケースも往々にしてあります。なので、それはあくまでも「おまけ」です。
一緒にビジネスを発展させていく中でパートナーとして船を漕ぐ側の人間でいてくれるかを見て投資家を決めると良いと思います。

会社名

株式会社グッドパッチ

設立年月

2011年 9月

事業内容

UI/UXデザイン、ビジネスモデルデザイン、ブランド体験デザイン、組織デザイン、ソフトウェア開発