フィンテック分野の成長に賭けて応援していただけるという姿勢を感じ出資を受けました

フリー株式会社
CEO
佐々木 大輔 氏

「freee」のサービス概要、誕生や起業のきっかけについて教えてください。

「freee」は会計を中心としたスモールビジネス向けバックオフィス業務の統合型クラウドERPサービスです。会計以外にも人事労務、税務申告、会社設立など様々な業務に関するサービスを提供しています。
前職のGoogle在籍時に感じた中小企業におけるテクノロジー活用の遅れと振興への意欲がきっかけで生まれました。
最初に会計分野に着目したのは、Googleの前に在籍していた㈱ALBERTのCFO時代に経理の仕事の大変さを痛感したためです。会計業務は大いに改善の余地があり、ここが変われば全てが良い方向に変わると感じ、会計分野のサービスを立ち上げることを決めました。

今後の成長戦略・事業展開について教えてください。

私たちは「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げています。
スモールビジネスの方が本業にしっかり向き合うことができますし、より自由な働き方を実現できます。スモールビジネスは一人あたりの仕事量が多く大変だと思われがちですが、テクノロジーを活用することで、負荷を大きく軽減することができます。さらに、昔は大企業しか使えなかったようなシステムが、今ではクラウドサービスのかたちで誰でも利用できるようになっています。

我々がやりたいことはまさにこうしたことで、誰でもビジネスを強く、スマートにできるプラットフォームを作っていきたいと考えていますが、その方向性として柱になる考えがいくつかあります。
一つ目は業務効率化・可視化を進めること。これは既存のクラウド会計ソフトを中心に取り組んできました。
二つ目はfreeeのユーザーやパートナー同士を繋げることで新しい価値を生んでいくこと。freeeのユーザー同士の取引を加速させる、或いはfreeeと連携しているアプリの開発者とユーザーを結びつけていくことで、より多くのニーズに応えられる機能が、当社以外からも提供されているような生態系を築きたいと考えています。
三つ目はデータを使った経営のアクションを可能とすること。会計の分野ではスモールビジネスの経営者が単独で解決することが難しい与信・融資など資金繰りに関するアクションが簡単にできる、人事労務の分野では従業員の報酬体制や福利厚生をどのように変更したいか入力すれば、全自動で導入できるといったことをfreee上で完結できるようにしていきたいです。将来的には実行できるアクションが増えて人工知能CFOのような存在となり、誰もがビジネスを強く、スマートにできる基盤を作っていきたいと思っています。

上場に至るまでに直面した困難を教えてください。

プロダクトをリリースするまでが一番大変でした。プロダクトの企画・構想段階でユーザーや業界関係者にヒアリングすると、会計ソフトに対してそこまで期待していないし、既存の機能・オペレーションがあるから新しいものを作られても困るという意見が大半でした。
その中で新しいサービスの開発を継続するかどうかが非常に難しい意思決定でした。結果として、これ以上のヒアリングはやめて、「理想ドリブン」で自分たちの理想とするプロダクトをまず作ってしまおうというアプローチに切り替えました。これができなかったら今のfreeeは存在していなかったでしょう。誰からも必要だと言われていないものを作り続けることは大きなプレッシャーでしたし、これが一番辛かったですね。

そのような中でも折れることなく続けられた原動力はなんでしょうか

アイデアを試す前の段階でやめてしまうと、世の中は何も進まず何の示唆も得られません。例えばこれまで会計ソフトは30年間進化せずにプレイヤーが変わっていない状況でした。なぜクラウド会計ソフトが新規参入しても誰にも必要とされないのかについて、30年間今の状態が続いているのだから、この先も変わらないという思考停止が理由なのか、それとも30年以上変わっていない根深い理由が地雷のように眠っているのかわかりませんでした。チャレンジしてそこをはっきりさせるという目的意識が強かったです。成否をあまり強く意識せず、実際に世の中にプロダクトを出してみることで本当の理由を明らかにしたいという想いがあり、これが一番大きな原動力となりました。

サービスが普及するという確信を持ったタイミングやきっかけを教えてください。

これは意外に早かったです。リリースした時に多くの方々からのアクセスがあり、ITの世界で生きているフリーランスの方など、自分たちがこれまで会ったことがなかった方々から、「こんなサービスをずっと待っていた」と高く評価していただきました。それまでは自分のリアルな繋がりを頼ってサービス開発前の調査・ヒアリングを行っていたのですが、リリース後に私たちのサービスを求めている方々とネット上で繋がることができました。さらにこの方々がSNS上でサービスを紹介し、「このように世の中が変わっていくのだ」と発信していってくれたことで次第に世の中に広がっていきました。これが当社のサービス普及に大きく寄与しています。
サービスリリースするまでは分かりませんでしたが。実際に私たちのサービスを必要としている方がいたと分かった時は心強く思いましたし、その方々が連鎖反応的に周りの意見を変えていく様子が見られた時には成功を確信しました。

SBIからの出資を受け入れてくださった決め手はなんでしょうか。

フィンテック分野の成長に賭けて、応援していただけるという姿勢や想いを感じたからです。実際、SBIグループ企業をはじめ様々な協業先を一緒に開拓するなど、人脈の面でもお力添えいただきました。その他に北尾会長からアドバイスをもらえたり、ちょっとしたお願いができたりするのもありがたかったです。また、政界のトップの方とお会いできたのも今となっては貴重な経験でした。

経営者として大切にされていることを教えてください。

一つ目は提供している、もしくはこれから提供しようとしているものが、ユーザーにとって本質的に価値があるものなのか考えることです。世の中にはユーザーが欲しいと言っても本質的には必要のないもの、逆に欲しいと言われていなくても本質的な問題を解決するようなものが多くあります。私たちは「マジ価値」という言葉を価値基準として、本質的に必要なのかに着目し続ける企業であり続けたいと強く思っています。二つ目は、お客様に提供するサービスに限らず、自分たちの活動により社会が一歩前に進んでいく、先の世の中を作っていくことに繋がるかどうかという観点で物事を見ることも大切にしています。

御社は不具合を「バグ」ではなく「ハッピー」と呼ぶ等、ユニークな取り組みをされていますが、他に御社ならではの独自のカルチャーはありますか。

例えば、マネージャーや上司のことを「ジャーマネ」と呼んでいます。これは芸能人のマネージャーのように、主役は一人ひとりのタレント(=部下)であり、彼らが最大限活躍できるようにすることがマネージャー(=上司)の仕事であることを象徴しています。あとは、組織の価値基準を大事にしています。全員でカルチャーや大事にすべきことを考え、議論する機会を定期的に設けることで、自分たちのものとしてアップデートし続けています。

これから起業や資金調達を考えている方へ先輩起業家としてアドバイスをお願いします。

大きなことを成し遂げるためには、前例がない世界を切り拓く必要があります。前例がないことに対して反対する人も多いかもしれませんが、大事な局面では自分が決めなくてはいけません。何から何まで人の言うことを聞いて成功してきた起業家は少ないと思っています。事業が伸びてからも「最後は自分で決める」ということを忘れずにやり続けてください。

会社名

フリー株式会社

設立年月

2012年 7月

事業内容

法人・個人事業主向けの、バックオフィスを効率化するためのSaaS型クラウドサービスを開発、運営