まずご自身がユーザになり、そこで良いと感じたら他の企業へも提供しようと動いていただけました

AI inside株式会社
代表取締役社長CEO
渡久地 択 氏

貴社設立より以前の経緯をお聞かせください。

初めて起業したのは19歳の頃、高校を卒業した翌年の2004年です。ただ、起業することは決めていたものの、事業内容は決めていませんでした。そこで、「ビジネスで勝つためには、未来を知っておくべきだ」と考え、歴史から学び、将来、世の中はどのように動いていくだろうか、と予想しながら200年先までの年表を書くことにしたのです。

その結果、人類に最も大きなインパクトを与える分野は、「宇宙」と「人工知能(AI)」だと確信し、自分がより興味を持つことできたAIのビジネスから始めていくことに決めました。

ただ、いきなりAIのビジネスを始めようにも、当時は技術も資金もない。そこで、AIにつながりそうなビジネスとして、ニューラルネットワークを実用化するためにグルメ系ポータルサイトから始めることにしたのです。海外のソースコードを参考に独学で開発し、チャットボットのような機能も入れていました。

その事業を売却したあとにスマートフォンが普及し、今度はアプリケーションの開発やより精度の高いチャットボットの開発を行なうなど、いくつかの事業に取り組みました。

その後、ソーシャルネットワークが出てきたことで、個人情報をユーザの承認のもと取得し、分析することができるようになってきました。次第にビックデータ分析の需要が拡大し、さらに日本には4社しか認定されていなかった、Facebook社のお墨付きである認定マーケティングデベロッパー(PMD)に選ばれたことで、受託の仕事が大幅に増えたのです。その一方、自社サービスの開発に集中できない状況が続き……。その受託事業も売却することにしまして、それが2012年頃のことです。

貴社の設立には、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

2012年、ディープラーニングの論文が発表されたり、Googleが開発したAIが自発的に猫の画像を認識することに成功したり、ディープラーニングに注目が集まる出来事が起きて、私も研究開発に没頭しました。

お客様とリレーションを築きながら今の事業につながるAI-OCRのサービスの形ができはじめ、ビジネスとして上手くいく手応えを得たことで、2015年にAI inside 株式会社を設立しました。

上場に至るまでに直面した困難を教えてください。

過去、誰もができなかったことに挑戦していくこと、まだないものを作っていくことが一番の困難でした。

OCRの歴史は古く、実は100年前からその技術自体はありました。しかし読取精度の課題はこれまでずっと解決されず、特に手書き文字の読み取りは誰にも実現できなかった領域だったのです。

2015年8月の設立から、現在の主力サービスである「DX Suite」が発売された2017年11月まで、およそ2年間は汎用的な製品の提供をしていませんでした。その2年間は500社ほどのお客様から学習データやフィードバックをいただき、精度やユーザ体験の向上を図ったり、アーキテクチャを改善したりと、試行錯誤を重ねていました。実現できるかどうか、誰も分からないことに対して労力を費やすことは、本当に大変でしたね。

困難に直面してもなぜ諦めなかったのでしょうか。

誰もAI-OCRの技術を実現できるか分からなくとも、自分は100%実現できると信じていたからです。実現できるか分からないものを信じ続けるのは確かに難しい。しかし、未来の年表を作る中で、自分が進んでいる方向は正しいという確信を得ていました。

DX Suiteのリリース後、サービスが成功するという確信を持ったタイミングを教えてください。

大きな変化を感じたタイミングは特にありません。当初は顧客数を伸ばすというより、一社一社のお客様と精度やUXの向上に向き合うことに注力していたため、正式リリースから5ヶ月後の2018年3月時点では10社しか顧客がいませんでしたが、おかげさまで製品もどんどん改善されていき、1年後の2019年3月時点では、185社にご導入いただくことができました。これは地道に事業に向き合ってきた結果だと思います。

毎週の全社会で社員に向けて「世界一の会社になろう」と言い続けているのですが、その観点でまだまだ当社は小さすぎます。だからこそ、「成功した」という体感をまだ得られるはずがありません。

全社会でどのようなお話をされているのでしょうか。

ビジョン・ミッションの話ばかりです。「私たちはどこに向かっているのか」「どのように事業に臨むべきか」といった話題を、創業時からずっと話し続けています。

全社会は毎週月曜日の朝に行なっており、これまで250回以上実施したことになりますね。ずっと伝え続けてきたことで、社員がみな「世界一の会社を目指すなら、こうあるべきだ」と口に出して、自ら考えるようになりました。

SBIからの出資を受け入れてくださったきっかけをお聞かせください。

住信SBIネット銀行さんとお取引があったことがきっかけで、SBIインベストメントさんからのご支援に至っています。

出資後にどういった支援でお役に立てていたか教えてください。

出資いただいた後はお客様をご紹介いただいたり、SBIさんが主催されているセミナーにお招きいただいたこともありました。サービス開始当初、弊社は金融法人をメインのターゲットユーザとして狙っていたので、DXを積極的に推進されている何十行もの地銀さんの前でプレゼンテーションできる機会を頂けたことは、非常にありがたかったです。

インベストメントさん含め、様々なグループ会社の方々にご支援いただき、大変助かっています。

お取り組みについて、どのような点を評価していますか。

SBIグループはビジネスと投資の連関性が強いと感じています。こちらから色々なご提案ができるのは、SBIグループの方向性がしっかりとこちらにも伝わっているからです。戦略や取り組んでいることをオープンに発信されているので、こちらとしても何をお願いすればよりシナジー効果が出そうなのかイメージしやすいです。

また、本当に早く動いてくださる、すごくサポーティブだと感じています。当社のサービスについても、まずご自身がユーザになり、そこで良いと感じたら他の企業へも提供しようと動いていただけました。

北尾会長のお人柄もとても魅力的ですね。

経営者として大切にされている姿勢を教えてください。

重複になりますが、まだ世の中にないものを「確実にあると信じる」ことです。自分がその未来を信じることができ、その根拠も揃っている状態になるまで、しっかり勉強して考え抜くことが非常に大事だと思っていまして、これは私のルーティンワークにもなっています。

それに加えて、日々の仕事の中で少しでも気になることや違和感を抱くことがあれば、自分の考えを人に「伝える」ことは意識的に行っています。ただ、まだ世の中にない考えは、満場一致となることはほとんどありません。腹を括って実行することも大切です。

若手の起業家や今後起業をされる方に向けてアドバイスをお願いします。

考え抜いて生まれたその事業が世の中に必要とされているのであれば、あとは諦めずにやるだけです。

私の考えですが、その事業が「自分がやりたいこと」や「自分ができること」から発想されている場合は、考え抜いてもほとんどの場合、確信を持つには至らないのではと思います。「この先の社会に求められるもの」から発想しているのであれば、確信を持つに至る可能性があるのではないかと思います。

会社名

AI inside株式会社

設立年月

2015年 8月

事業内容

人工知能および関連する情報サービスの開発・提供