オープンイノベーションに向けた取り組み

株式会社ニコン
経営戦略本部 戦略企画部 参事 CVC統括
鈴木 政央 氏 株式会社ニコン
経営戦略本部 戦略企画部 事業開発課 参事補
鈴木 由美 氏

2016年7月より株式会社ニコンはSBIと共同でCVCファンドを運営している。同社のオープンイノベーションに向けた取り組みの中で、SBIがどのような役割を担っているのかについて、お話を伺った。

会社としてオープンイノベーションを進めることとなった経緯やきっかけをお聞かせ願えませんか。

鈴木(政) : 2015年中期経営計画において、当社としては新規にメディカル事業への参入が決定しました。これにあたっては、自社単独で参入するのではなく、M&Aやオープンイノベーションを活用した方が新規事業を加速できると考え、世界の有望スタートアップ情報を集めるために複数のベンチャーキャピタルファンドへの出資を行いました。その中の一つがSBIベンチャー企業成長支援ファンドです。2015年から貴社のものを含め複数のベンチャーキャピタルファンドを通じた情報収集を行っており、情報収集だけでなく直接投資も行うことで2016年に貴社とCVCファンドの運営を開始し、今日に至っています。

自前でCVCファンドの運営を行うケースと、社外のパートナーと共同で運営を行うケースがございますが、貴社が社外のパートナーと共同で運営を行うことを決めた理由はなんでしょうか。

鈴木(由) : 最初はLP出資を通して様々なスタートアップの情報収集を行うことが主な目的でした。しかし、それはあくまでも間接的な出資です。ニコンとしては事業シナジーがある企業へ直接出資を行い、協業などで新規事業を創出するために、ファンド設立の検討を開始しました。
ただし、当初はファンド運営に関するノウハウが無かったため、外部の強力なパートナーが必要だと考え、SBIインベストメント様をパートナーに選ばせて頂きました。

パートナー候補として様々な会社がある中でSBIを選んでいただいた決め手はなんでしょうか。

鈴木(由) : 最終的に3社まで候補を絞った後、投資規模・投資実績・案件数・海外拠点の数など様々なベンチマークを精査させて頂きました。それに加えて、ご担当の方々から色々なことを丁寧に教えていただき、ご対応いただいており、そういった関係性の面も含めて総合的に判断させていただきました。

SBIとの定期的な取り組み内容をお伺いしてもよろしいでしょうか。

鈴木(政) : 毎週パイプライン会議を行っております。SBI様から興味深いスタートアップの案件をご紹介いただいたり、ニコン側からも独自に調べたスタートアップの情報を共有させていただき、活発にディスカッションを行っています。

ニコン様は新規事業領域に関する企業へ直接投資を行うケースもあれば、ファンドから投資を行うケースもあるかと思います。どういった棲み分けがなされているのでしょうか。

鈴木(政) : 投資に関しては我々には3つの手段がございます。1つ目がM&A、2つ目が事業部主導で行われる直接投資(マイノリティ投資・マジョリティ投資)、3つ目が御社と行っているCVCファンドを活用した投資(マイクロ投資)です。1つ目のM&Aでは、ニコンの事業における直近の事業領域の拡大、経営基盤の強化を目的として投資を行います。2つ目の事業部による直接投資は3年ほど先を見据えて事業部の方向性と合った企業に対して投資を行っております。そして、3つ目のマイクロ投資(CVCファンドによる投資)についてはもう少し先、5年程度先を見据えた将来への布石となりうる企業への投資です。
投資規模も異なります。事業部の直接投資は数$10Mになることが多いですが、貴社と行っているマイクロ投資は$3M以下くらいの規模で将来的な成長が期待できる技術や会社に対して投資を行っています。明確な基準があるわけではないですが、大まかにそのような線引きとなっています。

M&Aや事業部主導で行う投資案件についても御社CVC運営メンバーの方々に意見をいただくことがあります。特に、事業部から行うマイノリティ投資の場合はファンドからの出資に近いこともあり、SBIさんに意見や情報の提供をお願いすることが多いです。我々の最も理想的な投資の形は最初に少額の投資を行い、その後協業を通してシナジーを描くことが出来たらマジョリティ投資やM&Aを行うというものです。SBIさんとのCVCファンドの案件は半分以上の案件で追加出資をさせていただいており、当社との今後のシナジーに期待ができます。

CVCファンドの運用を通じて本業のお役に立てた事例はございますか。

鈴木(政) : 我々が描いていた将来像に適う、新たな商品・サービスとして期待ができる企業に3~4社投資を実行できました。それとは別に将来の新規事業に対する布石として投資した企業が数社あり、事業部が開発委託を行っています。まだ売上が発生したわけではありませんが、近い将来に我々の新規事業に繋がる可能性があります。

ファンドの運用以外にお役に立てていることがあれば教えていただけないでしょうか。

鈴木(政) : 幅広くサポートいただいております。例えば、社内の起業家育成プログラムでは審査員を務めていただきました。2017年のコーポレートアクセラレーションプログラムでは、審査員、メンターを務めていただき、ベンチャー企業のサポートをどのように行うかアドバイスをいただけました。

投資先についてM&Aや資本業務提携などゴールは決まっているのでしょうか。

鈴木(政) : 最大の目的は新規事業の創出なので、その達成が第一です。その目的達成のためにM&A、直接投資、資本業務提携などあらゆる手段を持ち合わせていることが大切であると考えております。

鈴木(由) : そのためにSBIさんからの情報は有効に活用させていただいております。出資案件ではないですが、将来的なパートナーになり得る企業やPoC候補先などをご紹介していただいているので、そういった面でも大変助かっています。SBIさんが自社で運営されているファンドの投資先も協業の候補先として複数ご紹介いただいており、工場まで視察に行ったこともありましたね。

CVCでの取り組みにより事業部とのコンフリクトが起きたり、チャレンジングな取り組みに消極的になったりとまだまだCVCを有効活用できていない企業も多いです。貴社のオープンイノベーションに向けた取り組みでの課題を教えてください。

鈴木(政) : CVCあるあるですね(笑)。我々も今まで全て自前主義で行ってきましたので、投資を通じて事業面で何かやろうと考える人、ベンチャーと協業してwin-winでやるという発想がある人はまだ少ないです。自前主義・プロダクトアウトで成功してきている人が多く、私自身も映像事業部の設計部にいた時は、自分達で開発設計、プロダクト化して成功してきました。SBIさんの力も借りながら少しずつオープンイノベーションへのマインドの切り替え・浸透を図っていますが、まだまだ道半ばです(笑)。

鈴木(由) : ただし、CVCからの投資については意思決定プロセスや評価基準を独立させているので、スピード感は違いますね。CVCの取り組みを通して、事業創出や投資実行がスムーズになったと思います。

ニコン様から見たSBIの評価や良い点を教えていただきたいです。

鈴木(政) : 2015年から一緒に取り組みをさせていただいて、我々のニーズに合致した様々な国内外の企業をご紹介していただき非常に助かっております。
自前で企業を探すとなると視野が狭くなるでしょうし、グローバルに探してくることは難しいでしょう。また、我々はテクノロジーの評価は出来ますが、SBIさんの今までの実績に裏打ちされる企業評価の観点は我々に足りていないので、両社が得意なものを出し合いながら良い投資ができていると思います。

鈴木(由) : 私たちも非常に成長できていると感じます。SBIさんとのCVCファンド運用や勉強会を通じて、ベンチャー投資に必要な知識面をサポートいただき、円滑な投資活動が実現できていると思います。

今後オープンイノベーションへの取り組みを目指される企業様にアドバイスをいただければ幸いです。

鈴木(由) : 活動を通じて両社ともに成長をすることが出来ているのではないかと思います。投資活動だけではなく、投資後のモニタリングやアクセラレータープログラムなどでベンチャー企業の成長を支援するノウハウなども教えていただき、大変参考になっています。

鈴木(政) : 我々は事業会社としてテクノロジーに強みを持っておりますが、我々にないベンチャー投資におけるSBIさんの知見を組み合わせて新事業創出の未来を描けるところまで来ました。また、SBIとしては事業の目利きの部分が鍛えられるでしょうし、我々はベンチャー投資における知見やノウハウの獲得に繋がっています。そのように両社が成長できるようなタッグを組むことがCVCを活用したオープンイノベーションの観点で重要だと思います。

会社名

株式会社ニコン

ファンド設立年月

2016年 7月

事業内容

光学機械器具の製造、ならびに販売